
シリーズ「猫様と乳酸菌」第3回 乳酸菌研究最前線!乳酸菌はアンチエイジングにも効く?最新エビデンスを解説
「猫様と乳酸菌」シリーズ第1回では乳酸菌がおなかの免疫に働きかけ、腸内細菌のバランスを整えることで猫様の体全体に良い影響をもたらす可能性を、シリーズ第2回ではおなか(腸)とあたま(脳)のつながり(脳腸相関)と、乳酸菌のストレス軽減効果についてご紹介しました。そして、第3回の本記事では、猫様にはいつまでも健康で長生きしてほしい、というすべての飼い主さんに共通の願いにアプローチするような研究をご紹介します。
実は近年、乳酸菌研究の最前線では「乳酸菌がアンチエイジング(老化予防)に役立つ可能性」が注目されています。骨の健康、皮膚の若々しさ、さらには聴力や記憶力の維持まで、乳酸菌が老化に伴うさまざまな変化に働きかけることが、動物や人間の研究で報告されつつあります。 本記事では、乳酸菌のアンチエイジング効果に関する最新研究をご紹介しながら、猫様にとってどのような可能性が考えられるかを、わかりやすく解説します。
監修した専門家

博士(理学)。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻を修了後、製薬会社にて研究職(非臨床安全性評価)に従事し、2023年4月にRABO入社。これまでに、神経科学及び毒性学領域(主にin vivo)での画像、行動、及び生体データを対象とした統計解析及び機械学習の技術開発を経験。猫様も好きだし、サルも好き。
「アンチエイジング」とは何か?──老化にアプローチする、という新しい発想
アンチエイジングと聞くと、肌のハリやシワといった美容面を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし近年の老化研究では、アンチエイジングとは「見た目の若さ」だけでなく、身体全体の機能を健やかに保ち、老化に伴うさまざまな変化をゆるやかにする取り組みとして捉えられるようになっています。
老化に伴って現れる変化は、私たち人間にも猫様にも共通して見られます。
- 骨や関節の衰え
- 皮膚や被毛の変化
- 感覚機能(聴力など)の低下
- 記憶力や学習能力の低下
- 免疫機能の低下
- 慢性的な炎症の蓄積
こうした変化の背景には、「慢性炎症」「酸化ストレス」「腸内環境の変化」「免疫バランスの乱れ」など、体の内側で徐々に進行するさまざまな要因があることが分かってきています(文献1)。
そしていま、これらの老化プロセスに働きかける可能性がある食品成分として注目されているのが、乳酸菌なのです。
なぜ乳酸菌が老化に関わるのか?──おなかから全身へ
「猫様と乳酸菌」シリーズ第1回でもご紹介してきたように、乳酸菌はおなかの免疫に働きかけ、腸内細菌のバランスを整えることで、体全体にさまざまな影響を及ぼすことが知られています。
老化との関係で特に重要なのは、以下の3つのメカニズムです。
①慢性炎症の抑制
加齢に伴って体内では様々な場所で軽い炎症が起きやすく、また続きやすくなります。これは、炎症(inflammation)と老化(aging)からなる造語であるインフラメイジング(inflammaging)と呼ばれ、さまざまな老化に関係する疾患の土台と考えられています。乳酸菌はおなかの免疫バランスを整えることで、この慢性炎症をやわらげる可能性が示されています(文献1)。
②抗酸化作用
「活性酸素」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは呼吸で取り込む酸素が体内で変化した物質で、細胞や組織を少しずつ傷つけ、老化を進める大きな原因となっています。一部の乳酸菌には、この活性酸素の働きをやわらげる力(抗酸化作用)があることがわかってきており、老化や体へのダメージを抑える可能性として注目されています(文献2)。
③腸内環境の変化
加齢に伴い、腸内細菌のバランスは乱れやすくなります。「猫様と乳酸菌」シリーズ第1回でもお伝えしたように、腸内の乱れは全身の健康に影響します。乳酸菌の摂取が腸内環境を整えることで、全身の健康維持に寄与することが、研究から示唆されています(文献1)。
最新研究が示す乳酸菌のアンチエイジング効果
ここからは、乳酸菌のアンチエイジング効果について、実際の研究で報告されている内容をご紹介します。特に、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で長年研究されてきたLactococcus lactis subsp. cremoris H61(以下、H61株)は、世界的にもアンチエイジング研究が豊富な乳酸菌株のひとつです。

① 骨密度の低下を抑える
年齢を重ねるに伴って骨は段々ともろくなっていき、これを骨密度の低下といいます。これは人間でも猫様でも共通して発生し、活動量の低下や骨折リスクに関わる重要な老化サインです。
早期に老化が進む特殊なネズミ(マウス)を用いた研究では、H61株を加熱死菌として5か月間摂取させた場合に、摂取しなかった場合と比べて骨密度の低下が抑えられることが報告されました(文献3)。この研究では、皮膚の傷やただれ(潰瘍)や脱毛などの外見的な老化サインも軽減されており、骨と皮膚の両面で老化の進行が遅くなったことが示されています。
② 皮膚の保水力を維持
皮膚には外からの刺激や病原菌の侵入を抑えるバリア機能や、潤いを保つための保水機能があります。加齢とともに皮膚のバリア機能や保水力が低下することは、人間でも猫様でも共通してみられる変化です。
日本人女性30名を対象とした試験では、H61株の加熱死菌体を1日60 mg、8週間摂取した場合に、摂取しなかった場合(プラセボ)と比べて腕の皮膚に含まれる水分量の低下が抑えられたことが報告されています(文献4)。また、アンケート調査では、肌のハリや毛穴の目立ちにくさについても、摂取した場合に改善する傾向が見られました。 猫様についても今後、同様の研究が待たれます。
③ 聴力の老化を遅らせる
加齢に伴う聴力低下は、人間の高齢者でよく見られる症状ですが、実は老化研究ではネズミでも共通して観察される典型的な老化指標です。
マウスを用いた研究では、H61株の加熱死菌を6か月間摂取したマウスで、摂取しなかったマウスと比べて聴力閾値の悪化が有意に抑えられたことが報告されました(文献5)。また、聴覚を担う内耳の神経細胞や有毛細胞の減少も抑えられており、聴力老化を組織レベルで遅らせた可能性が示されています。
④ 記憶力の低下を抑制
H61株を摂取したマウスで、加齢に伴う記憶力低下の抑制や、慢性ストレスによるうつ様行動の軽減も確認されており、その成果をもとにした特許出願がされています(文献6-7)。「猫様と乳酸菌」シリーズ第2回でご紹介した脳腸相関と関連して、乳酸菌が脳の老化にも影響を及ぼす可能性が注目されています。
猫様の乳酸菌と老化予防──最新研究から期待されること
このように、全身のさまざまな機能に着目して、乳酸菌のアンチエイジング効果が調べられている一方で、これらの効果を猫様で直接評価した研究は、まだ多くは存在しません。
ただし、哺乳類に共通する腸管免疫や脳腸相関の仕組みを踏まえると、猫様でも同様のメカニズムが働く可能性は十分考えられます。似た動物での研究例として犬を対象とした研究では、H61株の摂取により老化度スコアの改善傾向が示唆されたという報告もあります(文献8)。今後、猫様を対象とした研究の進展が期待されます。
乳酸菌のアンチエイジング効果は、一度摂取しただけで実感できるものではありません。マウスの研究でも人間の臨床試験でも、数週間〜数か月単位の継続摂取が前提となっています(文献3〜6)。また、「猫様と乳酸菌」シリーズ第2回でご紹介したように、乳酸菌によるストレス軽減効果も、継続的な摂取が重要であることが示されています。
そして、老化は高齢になってから突然始まるものではなく、若い頃からの積み重ねで少しずつ進行していくものです。そのため、高齢になってから始めるのではなく、健康なうちから乳酸菌を取り入れた健康習慣を積み重ねていくことが、将来の健やかな生活につながると考えられます。
「乳酸菌でアンチエイジング」というと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、その背景には長年にわたる地道な研究の積み重ねがあります。毎日の小さなケアが、数年後の猫様の健やかな毎日につながる──そんな想いで、この機会に乳酸菌を使った新しい健康習慣を始めてみてはいかがでしょうか?
参考文献
- Warman DJ, Jia H, Kato H. The potential roles of probiotics, resistant starch, and resistant proteins in ameliorating inflammation during aging (Inflammaging). Nutrients. 2022;14(4):747. doi: 10.3390/nu14040747
- Liu Y, et al. Oxidative stress tolerance and antioxidant capacity of lactic acid bacteria as probiotic: a systematic review. Gut Microbes. 2021;12(1):1801944. doi: 10.1080/19490976.2020.1801944
- Kimoto-Nira H, Suzuki C, Kobayashi M, Sasaki K, Kurisaki J, Mizumachi K. Anti-ageing effect of a lactococcal strain: analysis using senescence-accelerated mice. Br J Nutr. 2007;98(6):1178-1186. doi: 10.1017/S0007114507787469
- Kimoto-Nira H, Aoki R, Sasaki K, Suzuki C, Mizumachi K. Oral intake of heat-killed cells of Lactococcus lactis strain H61 promotes skin health in women. J Nutr Sci. 2012;1:e18. doi: 10.1017/jns.2012.22
- Oike H, Aoki-Yoshida A, Kimoto-Nira H, et al. Dietary intake of heat-killed Lactococcus lactis H61 delays age-related hearing loss in C57BL/6J mice. Sci Rep. 2016;6:23556. doi: 10.1038/srep23556
- 木元広実ら. ラクトコッカス属乳酸菌を含む記憶力低下抑制剤. 特願2021-206818
- 木元広実ら. ラクトコッカス属乳酸菌を含むストレス反応軽減剤. 特願2021-206821
- 木元広実, 守谷直子. Lactococcus lactis H61の投与によるイヌのエイジングレベルの改善の可能性. 日本ペット栄養学会誌. 2016;19(1):1-7
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ライター

Catlog総合研究所
「Catlog」シリーズを利用いただいている猫様から取得・蓄積された行動ログデータや体重・排泄データなどを活用した研究機関。 猫様の行動や習性をよりよく理解するきっかけとなる研究データをお届けしてまいります。











