シリーズ「猫様と乳酸菌」第4回 猫様の乳酸菌は「生きて届く」必要ある?生菌・死菌の特性と効果の違いを解説

シリーズ「猫様と乳酸菌」第4回 猫様の乳酸菌は「生きて届く」必要ある?生菌・死菌の特性と効果の違いを解説

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これまでの「猫様と乳酸菌」シリーズでは、猫様をはじめとした動物で検証されている乳酸菌一般の効果について記事を出してきました。シリーズ第4回となる本記事では、「乳酸菌サプリを選ぶ」という実践的な視点から、飼い主さんが疑問に思われることの多い「生きている菌(生菌)」と「不活性化させて死んでいる菌(死菌)」の違いについて解説します。

乳酸菌サプリのパッケージや宣伝で「生きて腸に届く」という言葉を目にしたことがある飼い主さんも多いのではないでしょうか。では、生きていない死菌は意味がないのでしょうか?答えはノーです。近年の研究では、乳酸菌は生きていなくても十分な健康効果を発揮できることが示されつつあります。本記事では、生菌と死菌それぞれの特性と効果の違いについて、最新の研究もまじえながらわかりやすく解説します。


監修した専門家

Soshi Tanabe(@beeyan)

Soshi Tanabe(@beeyan)

博士(理学)。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻を修了後、製薬会社にて研究職(非臨床安全性評価)に従事し、2023年4月にRABO入社。これまでに、神経科学及び毒性学領域(主にin vivo)での画像、行動、及び生体データを対象とした統計解析及び機械学習の技術開発を経験。猫様も好きだし、サルも好き。


乳酸菌は「生きて腸に届く」必要がある?

乳酸菌サプリメントのパッケージや宣伝に、「生きて腸に届く」という言葉を見かけることがあります。これは、乳酸菌が胃酸などの過酷な環境を生き延びて腸まで到達することを指しており、生きた乳酸菌(生菌)の特性として強調されることがあります。

しかし、このフレーズはやや誤解を招きやすいかもしれません。乳酸菌の健康効果において「生きている」ことは必ずしも必要条件ではないことが、近年の研究から明らかになってきています(文献1)。

生菌と死菌:プロバイオティクスとポストバイオティクス

乳酸菌の世界では、生きた菌と死んだ菌を指す言葉として、それぞれ専門的な用語があります。

プロバイオティクスとは、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が「十分量を摂取したときに宿主の健康に有益な効果をもたらす生きた微生物」と定義したものです(文献1)。ヨーグルトや乳酸菌飲料などが代表的な例で、生きた状態の菌が腸に届き、腸内環境を整えることが主な役割とされてきました。

一方、ポストバイオティクスとは、加熱などで不活化した菌(死菌体)やその構成成分・代謝産物を指します(文献1)。近年この概念が広まりつつあり、生菌でなくとも体にとって有益な効果が得られることが示されてきています。特に、死菌体は、生菌よりも免疫を活性化する効果が高い場合があることが報告されています(文献1)。

生菌と死菌、それぞれの特性を比較してみると

生菌と死菌の違いは、効果だけにとどまりません。安全性や保存方法など、サプリメントとしての実用的な特性にも大きな差があります。両者の特性は以下のように整理できます(文献1)。

※表:生菌と死菌の特性の違い(文献1を改変)

これを見ると、ポストバイオティクス(死菌)は、安全性と保存性の面で生菌より優れている点が多いことが分かります。特に、感染リスクがなく、予期せぬ遺伝子変異の心配がないという安全面での利点は、猫様にとって大切なポイントです。また、常温で長期間保存できるため、毎日のごはんに混ぜやすいという実用上のメリットも見逃せません。

生菌と死菌で何が変わる?人間・動物でのエビデンス

特性の違いは分かりましたが、「では死んだ菌で、実際に体に何が起きるのか?」という疑問が次に浮かぶと思います。ここでは、人間と動物での研究から見えてきたことをご紹介します。

人間での研究:免疫の活性化と感染症・アレルギーへの応用

人間においては、複数の臨床試験でポストバイオティクスの有益な効果が報告されています。

免疫調節の分野では、加熱処理した乳酸菌(MCC1849株)を用いた試験が注目されています。健康な成人を対象としたこの試験では、同菌を4週間摂取したところ、免疫応答を担う細胞(樹状細胞)が活性化され、ウイルス感染に対する防御に関わる免疫分子の発現が維持されることが示されました(文献3)。また別の試験では、風邪をひきやすい成人が同じ乳酸菌を摂取したところ、風邪症状の発生や持続期間が改善する傾向が報告されています(文献3)。

免疫調節以外では、アトピー性皮膚炎・下痢などへの応用例も報告されており、ポストバイオティクスの臨床的な可能性は複数の領域にわたって広がりつつあります(文献1)。

ペットでのエビデンス:加熱死菌が犬の免疫バランスを調整する

人間に比べて報告数はまだ少ないものの、犬を対象とした研究でもポストバイオティクスの免疫調節作用が確認されつつあります。

2025年に発表された研究(文献4)では、健康な犬から採取した白血球(末梢血単核球、PBMC)に対し、加熱処理した乳酸菌を作用させたところ、免疫バランスの調整に関わる変化が確認されました。犬では皮膚のアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎)で免疫バランスの乱れが見られることが知られており、加熱死菌がそのバランスに働きかける可能性が示されています。

猫様を対象としたポストバイオティクスの研究はまだ限られていますが、哺乳類に共通する免疫の仕組みを考えると、人間や犬で確認されているような効果が猫様でも期待できる可能性があると考えられており(文献1)、今後の研究の発展が期待されます。

なぜ死んだ菌でも効くのか?細胞レベルで解明された作用の違い

ここまで「死んだ菌でもこれだけの効果が報告されている」という事実をご紹介しました。では、そもそもなぜ死んでいる菌が体に作用できるのでしょうか。2026年に発表された最新の研究(文献2)が、そのメカニズムに細胞レベルで迫りました。

この研究では、乳酸菌の生菌または加熱処理した死菌を、生きた小腸の細胞と一緒に培養し、それぞれが細胞にどう作用するかを網羅的に遺伝子解析しました。結果として、同じ乳酸菌であっても、生菌と死菌では腸細胞への作用の種類が明確に異なることが分かりました。

  • 生菌は腸の中で酸素を消費し、細胞の代謝(エネルギー産生)を活性化する方向に働きました。
  • 死菌は、加熱によって表面構造が変化したことで、細胞の免疫応答を強く引き出す方向に働きました。

つまり、死菌の表面構造の変化そのものが、腸の免疫細胞を刺激する「鍵」になっている可能性があります。前のセクションで見てきた人間や犬での免疫調節効果も、こうした細胞レベルの作用が積み重なった結果と考えると、より腑に落ちるのではないでしょうか。また、この研究は「生菌か死菌かを目的に応じて使い分ける」という発想に、科学的な根拠を与えるものでもあります(文献2)。

まとめ

「生きて腸に届く」かどうかは、乳酸菌サプリ選びにおいてひとつの観点ではありますが、それだけが効果を決めるわけではありません。本記事でご紹介したように、生菌と死菌はそれぞれ異なる特性と作用を持っており、目的に応じた使い分けという発想も重要です。

猫様用サプリを選ぶ際は、「生菌か死菌か」という点とともに、以下のポイントも参考にしてみてください。

  • その菌株が猫様向けに開発・検証されているか
  • 安全性の面でどちらのタイプが適しているか
  • 保存や食べやすさはどうか

生きているか死んでいるかはサプリ選びで重要なポイントのひとつです。ぜひ猫様に合った製品選びの参考にしてみてください。

参考文献

  1. 大池秀明. ペット向け乳酸菌の現在地点と個別化乳酸菌の展開. 未病の科学 2026; 6: 43-49
  2. Matsumoto K, Takada Y, Imamura Y, et al. Live and heat-treated Lactiplantibacillus plantarum induce distinct metabolic and immune responses in intestinal epithelial cells. iScience. 2026. doi: 10.1016/j.isci.2026.112289
  3. Li Y, Aoki T, Iwabuchi S, et al. Immunomodulatory activity of heat-killed Lacticaseibacillus paracasei MCC1849 based on the activation of plasmacytoid dendritic cells in the peripheral blood of healthy adults. Food Sci Nutr. 2024;12(5):3452-3460. doi: 10.1002/fsn3.4009
  4. Cauquil M, Olivry T. Immunomodulating effects of heat-killed Lactobacillus rhamnosus and Lactobacillus reuteri on peripheral blood mononuclear cells from healthy dogs. Vet Sci. 2025;12(3):226. doi: 10.3390/vetsci12030226

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ライター

Soshi Tanabe(@beeyan)

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博士(理学)。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻を修了後、製薬会社にて研究職(非臨床安全性評価)に従事し、2023年4月にRABO入社。これまでに、神経科学及び毒性学領域(主にin vivo)での画像、行動、及び生体データを対象とした統計解析及び機械学習の技術開発を経験。猫様も好きだし、サルも好き。


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