
Catlog総研 第18回レポーティング|防災の日特集、令和8年熊本地震で猫様に起きた変化(前編)
9月1日は防災の日。これは、1923年9月1日に発生した関東大震災を教訓として、台風や地震等の災害への認識を深め、防災対策の重要性について広く国民の理解を促すために制定されたものです。
日本はとりわけ災害の多い国ですが、本年も令和8年熊本地震や令和8年8月千葉豪雨などの大きな災害が複数発生しました。お亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
こういった災害を経験または見聞きした猫様の飼い主さんにとっては、一般的な防災対策に加え、猫様のための備えの重要性を改めて感じられた方も多いのではないでしょうか。もしもの時の備えを考えるには、実際の災害時に猫様の状態や行動がどのように変化しうるかを把握した上で、ご家庭に応じた対策を検討することが重要だと考えています。
一方で、地震のような予測不能な災害の前後に行動を記録し、その変化を評価する機会は極めて限られています。もし行動記録が得られた場合でも、記録された行動の変化を地震発生地域に特徴的な変化として区別するためには、同時期に他の地域で記録されたデータと比較する必要がありますが、これも容易ではありません。
このような背景のなかで、Catlogシリーズで取得された、日本全国の数万匹規模の猫様を含む大規模行動データベースを分析することで、地震発生前後で現れる猫様の行動パターンの変化を評価することが可能です。このような分析を通じ、災害後にはどのようなケアが必要かという知見を発信していくことが、Catlog総研が果たせる役割の一つであると考えています。
そこで今回のCatlog総研では、Catlogシリーズから見えた、令和8年熊本地震後の猫様の行動変化について取り上げます。具体的には、熊本県にお住まいと考えられる猫様のCatlogデータを分析し、地震発生後の警戒状態からいつも通りの日常へ戻るまでの過程を見ることで、災害時に飼い主さんに注意していただきたい猫様の変化について考察します。
監修した専門家

博士(理学)。京都大学大学院理学研究科生物科学専攻を修了後、製薬会社にて研究職(非臨床安全性評価)に従事し、2023年4月にRABO入社。これまでに、神経科学及び毒性学領域(主にin vivo)での画像、行動、及び生体データを対象とした統計解析及び機械学習の技術開発を経験。猫様も好きだし、サルも好き。

イリオモテヤマネコの研究で博士号(琉球大学大学院理工学研究科)を取得。イエネコに世界で初めてデータロガーを付けたことが自慢。南極のペンギン類からアフリカのチーターの研究などを経て、現在は、瀬戸内海に棲むさまざまな動物を対象にバイオロギング研究を続けている。RABOでは、動物研究者の目線から機械学習チームの開発をサポートしている。

機械学習エンジニア。RABOの長期インターンを経て新卒入社。猫の行動の波形画像を大量に見ているため、波形画像から猫の行動がだいたいわかるようになった。今は実家の猫様と離れて暮らしているため猫に飢えている。GANやVAEなどの画像生成モデルがとても好き。
本記事(前編・後編)のサマリー
- 数万匹規模のデータベースを持つCatlogだからこそ可能な、令和8年熊本地震前後の熊本県にお住まいと思われる猫様(約170匹)の行動を連続記録した、世界的にも類を見ない大規模分析
- 本震当日、猫様の元気スコアと睡眠スコアが急落し、日常的な行動も減少——大地震のストレスは猫様の心身にも確かな爪痕を残していた
- 余震や猛暑が続く中、猫様が歩き回り、睡眠が断片化するなど、猫様が熟睡できず揺れに敏感になる警戒状態のサインが1週間程度持続
- 本震後、おしっこの回数と量が減少し、回復しきらないうちに猛暑が重なって、泌尿器トラブルを示唆するアラートも再増加——災害時は「おしっこチェック」も重要
本震後から同時に崩れた、猫様の元気と睡眠
令和8年熊本地震の特徴と分析方法
令和8年熊本地震は、2026年7月28日16時27分頃に熊本県熊本地方を震源として発生した、マグニチュード7.1、最大震度7を観測する大規模な地震でした。加えて、本震後は震度3〜5弱クラスの地震が断続的に発生し、2週間で合計600回を超える余震が続きました(図18-1左上)。また、熊本市では8月3日に最高気温が40.3℃に達し、観測史上初となる酷暑日を記録するなど(図18-1右上)、停電や断水が続く中での熱中症への対応が大きな課題となりました。
地震のような予測不能な災害が動物に与える影響については、これまでも国内外でいくつかの研究が報告されてきました。しかし、地震発生前から同じ個体の日常行動を高い頻度で記録し、地震直後から数週間にわたる変化を一貫して追跡し、さらに同時期の大規模な比較対象群まで揃えられた例は、Catlog総研が調べた限りありませんでした(詳しくは記事末のコラム「地震が動物の行動に与える影響を調べた研究について」をご覧ください)。今回、Catlogシリーズが日常的に蓄積してきたデータを用いることで、地震前後の行動を連続的に記録し、同時期の全国数万匹のデータと比較する、という世界的に見ても希少な大規模分析が可能になりました。
本記事では熊本地震前後での熊本の猫様の行動変化を調べるため、熊本県にお住まいと思われる猫様のCatlogデータを抽出し、地震前後の各種行動指標の推移を調べました。具体的には、Catlogに登録された情報をもとに熊本県にお住まいと思われるCatlogまたはCatlog Boardをご利用の飼い主さんと猫様(約170匹、熊本群)について、個人が特定されない形でデータを抽出し、分析しました。また、同時期の日本国内の飼い主さんに紐づく猫様(数万匹、全国群)のデータを抽出し、同様の分析を行うことで比較対象としました。
以下、Catlogが計測する複数の指標を通して、地震発生後の猫様の状態がどのように変化し、いつ頃日常へ戻っていったのかを見ていきます。

Catlogの元気スコアと睡眠スコアが大きく低下
まず、元気スコアと睡眠スコアの推移から見ていきましょう。元気スコアは、活動量や食事・水飲みの回数など複数の行動指標をもとに、猫様の総合的な体調や活動状態を表す指標です。過去1ヶ月間を基準とし、その日の行動が平常時と同程度であれば100点とし、行動の増減に伴いスコアも増減させる設計になっており、スコアが低いほど体調不良など普段と異なる状態にある可能性を示します。睡眠スコアは、睡眠時間や睡眠回数など様々な睡眠の指標に着目し、睡眠時間や睡眠の質(途中で目覚める頻度など)がその猫様の平常時からどれだけ乖離しているかを評価するスコアです。
元気スコア(図18-1左下)は、本震前の熊本群の平均スコアが98.9に対し、本震当日に大きく低下し、91.7(-7.2%)まで落ち込みました。その後は速やかに回復し、7/31にかけて本震前の水準に近づいていく様子が見られました。
睡眠スコア(図18-1右下)でも同様の変化がみられ、本震前の熊本群の平均スコアが87.7だったものが、本震当日から低下し、翌日の7/29に82.5点(-6.0%)と期間中の最低値をつけました。その後は回復に転じ、8/2にはほぼ地震前平均まで戻りましたが、日によって全国平均と比較して小さな落ち込みが見られました。
このように、地震発生直後は元気・睡眠の両スコアが低下し、特に睡眠スコアは本震翌日に最も大きく落ち込む、という、やや時間差のある反応が見られました。
本震直後の行動変化だけでなく、余震の継続に伴って落ち着かない行動が見られた
では次に、これらのスコアの変化が具体的にどのような行動の変化によるものかを見てみましょう。まずは、猫様の代表的な行動指標(1日あたりの食べる回数、水飲み回数、毛づくろい時間、歩くと走るの合計時間)について見ていきます。これらの指標は猫種や年齢、また飼育環境などによって個体差が大きいことから、猫様ごとに本震前の平均値を基準とした時の変化率(%)を算出し、群別の平均値を比較しました。
その結果、食べる回数(図18-2左上)及び水飲み回数(図18-2右上)について、熊本群の平均変化率は本震当日にそれぞれ-16.9%及び-13.4%まで低下しました。その後はいずれも数日〜1週間程度かけて、本震前の水準まで戻りました。
これらと比較すると毛づくろい時間(図18-2左下)は少し異なる推移をしています。具体的には、本震当日は食べる回数や水飲み回数と同様に大きく減少(-22.0%)しましたが、その翌日(7/29)には、本震前の水準に戻りました。さらに、その後7/30から8/2にかけ、本震前より+10%以上高い水準が続き、これは全国平均と比べても高値でした。
歩く+走る時間(図18-2右下)はさらに特徴的な動きを見せました。他の指標で見られていたような本震当日の大きな減少はこの指標では見られず、むしろ本震翌日には大きく増加(+23%)しました。この増加傾向は本震後1週間程度にわたって見られ、この間、全国平均と比べても高い水準が継続しました。

以上の結果から、地震の前後で次のような猫様の行動変化が見て取れます。まず、本震当日は食べる、水飲み、及び、毛づくろい行動が少なくなり、これに伴い元気スコアも大きく下がりました。これには二つの理由が考えられます。まず、本震により生活環境が大きく変化し、飼い主さんから普段通りの食事や給水が行われなくなった可能性があります。加えて、本震直後の1日100回を超える高頻度な余震(図18-1左上)によるストレス反応として、食べるや水飲み、毛づくろいといった猫様の自然な行動全般が少なくなった可能性があります。このような食べる回数や水飲み回数の減少により、本震直後はごはんや水分の摂取量が少なくなっていたかもしれません。その後、生活環境は元に戻る一方で、余震が継続的に発生した結果、ストレスや恐怖から自分を落ち着かせるために毛づくろい行動が増加したり、警戒による落ち着きのなさが増えることで歩くや走る行動が増加していると考えられます。
本震後1週間、余震と猛暑でぐっすり眠れない猫様たち
続いて、睡眠をはじめとした休息状態に関する指標を見ていきます。Catlogでは、猫様が特に活動していない時間帯を、睡眠している時間と睡眠していないが特に動いていない時間に大きく分け、Catlogアプリ内ではそれぞれ、「睡眠」時間と「くつろぐ」時間として表示しています。睡眠している時間についてはより詳細な分析を行い、1日の合計睡眠時間(睡眠の量)に加えて、睡眠のまとまり方を分析することで睡眠が細切れになっていないか(断片化)、などといった睡眠パターンを総合的に評価する指標として、睡眠スコア機能を提供しています。
今回のレポーティングでは、1日の合計睡眠時間と「くつろぐ」時間に加え、睡眠断片化の指標であるまとまった睡眠回数として、1回30分以上の長い睡眠の回数と30分未満の短い睡眠の回数を分析しました。なお、Catlog総研第11回レポーティングでもお伝えしたとおり、猫様の睡眠パターンは年齢によって大きく異なることから、先ほどと同様に、個体差を考慮して猫様ごとに本震前の平均値を基準とした時の変化率(%)を算出し、群別の平均値を比較しました。
まず睡眠時間(図18-3左上)について分析したところ、睡眠スコアと同様に、本震当日に大きく減少し、その翌日(7/29)に最も大きな下落幅(-9.6%)を記録しました。ただし、この下落は本震2日後(7/30)には地震前と同程度の水準まで回復しました。
一方で「くつろぐ」時間(図18-3右上)は対照的な動きを見せています。具体的には、本震当日から大幅に上昇し、本震翌日(7/29)に最も大きな増加(+23.8%)となりました。睡眠時間の変化とは異なり、この「くつろぐ」時間の増加は直ちに本震前の水準には戻らず、8/2-3に再び増加するなど1週間程度高値が継続しました。
次にまとまった睡眠回数を見ていきましょう。長い睡眠回数(図18-3左下)は他の指標と同様に本震当日に最も減少し(-11.5%)、その後3-4日かけて地震前の水準に回復しました。ただし、8/2から8/3にかけて再び一過性の減少が見られました。一方、短い睡眠回数(図18-3右下)は本震翌日の7/29に+16.5%の一過性の増加となった他、8/2にも10%以上の一過性の増加が見られました。

以上のような結果から、猫様の睡眠の変化について考察します。まず、本震当日及び翌日は睡眠時間が一過性に大きく減少しており、これは食べる、水飲み、及び毛づくろいの変化と同様、本震による生活環境の大きな変化や高頻度な余震により睡眠が阻害されたものと考えられます。これらは特に、余震によってまとまった睡眠(長い睡眠)が中断されやすくなった結果、その代わりに細切れの短い睡眠や、覚醒に近いが特に動いていない「くつろぐ」時間が増加したと考えられます。加えて、8/2-3にかけてこれらの傾向が再び見られています。熊本市が酷暑日を迎えたタイミング(8/3)と重なることから、余震に加え、気温上昇に伴いぐっすりとした睡眠がなかなか取れない期間が続いたと考えられます。
前編のまとめ
ここまで、令和8年熊本地震の前後で、熊本にお住まいの猫様の元気スコア・睡眠スコア、そして食べる、水飲み、毛づくろい、歩く・走るといった日常行動、さらに睡眠の量と質がどのように変化したかを見てきました。本震当日から翌日にかけて元気・睡眠スコアが大きく落ち込み、その後も余震が続く中で毛づくろいや歩く・走る時間の高まりといった猫様が地震に敏感になっている「警戒状態」のサインが1週間程度続いていたことが分かりました。
後編では、Catlog Boardで計測されるトイレ関連の指標(おしっこの回数・量、うんちとの違い、トイレの異常をお知らせするアラート)に着目し、地震後の環境変化が猫様の泌尿器の健康にどのような影響を及ぼしうるかについて見ていきます。特に、8月3日の熊本の酷暑日と重なるタイミングで見られた変化は、災害時の猫様のケアを考える上で見過ごせないポイントです。後編もあわせてぜひご覧ください。[後編はこちら]
コラム:地震が動物の行動に与える影響を調べた研究について
地震の発生前後に動物が通常とは異なる行動を示すことは古くから報告されてきましたが、その多くは地震発生後の目撃情報や逸話的記録に基づいています。地震の前後で同じ動物の行動を記録し、比較した研究は、実はこれまで多くありません。地震はいつどこで起こるか予測できないため、"地震前のデータ"がたまたま記録されていたケース自体が限られているためです。
野生動物を対象とした数少ない例のひとつが、2008年の四川大地震(M8.0)後に行われた、ヤギの仲間であるシセンターキンという動物を対象にした研究(文献1)です。GPSで追跡された4頭の移動距離を調べたところ、1日あたりの移動距離には大きな日間変動が見られたものの、地震前後で明確な増加や減少といった変化は見られませんでした。ただし、本研究は対象がわずか4頭と少なく、記録は1日単位であり、地震発生直後に生じる一過性の活動増加、静止、逃避、警戒などの行動変化までは捉えきれなかった可能性があります。
2011年の東日本大震災の際、東京都内の研究施設で飼育されていたマウスを調べた研究(文献2)があります。この研究施設では、本震時に強い揺れを経験し、その後も多数の余震が続きましたが、地震後に食欲が高まり、その変化が1ヶ月以上続いたことが報告されています。不安に関連する行動の変化や、ストレスホルモンの上昇も確認されました。ただしこの研究は、地震を経験した個体と経験していない個体を後から比較したもので、地震発生時の行動変化そのものは記録されておらず、依然として明らかになっていません。
近年では、加速度センサーを用いたバイオロギング技術の発達により、動物の活動を長期間・高頻度に記録することで、より詳細な分析も可能になってきました。2016〜2017年にイタリア中部で地震が続いた際には、農場の牛・羊・犬にセンサーを装着した研究(文献3)があり、犬は活動量が増加、牛は一時的に低下した後増加するなど、動物種によって地震への反応が異なることが示されています。ただし、この研究では、個々の動物が具体的にどのような行動変化を示したのかは直接評価していません。
このように、地震が動物の行動やストレスに影響しうることはこれまでも示されてきたものの、①地震前から同じ個体を継続的に記録し、②地震直後から数日〜数週間の変化を一貫して追い、③同時期の"影響を受けていない個体"とも比較する——この3つを満たした研究は、Catlog総研が調べた限り例がありませんでした。今回、Catlogシリーズが日常的に蓄積してきた数万匹規模のデータがあったからこそ、この稀有な分析が可能になりました。
【引用文献】
(1)Ge et al. (2011). Effects of an earthquake on wildlife behavior: a case study of takin (Budorcas taxicolor) in Tangjiahe National Nature Reserve, China. Ecological Research 26: 217-223.
(2)Yanai et al. (2012). Remarkable Changes in Behavior and Physiology of Laboratory Mice after the Massive 2011 Tohoku Earthquake. PLoS ONE 7: e44475.
(3)Wikelski et al. (2020). Potential short-term earthquake forecasting by farm animal monitoring. Ethology 126: 931-941.
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ライター

Catlog総合研究所
「Catlog」シリーズを利用いただいている猫様から取得・蓄積された行動ログデータや体重・排泄データなどを活用した研究機関。 猫様の行動や習性をよりよく理解するきっかけとなる研究データをお届けしてまいります。












